講義したいこと

講義に盛り込みたい内容の取捨選択でいろいろ試行錯誤している。大きく分ければ4つに分類できる。

1. 物理という見方
物理屋は自然現象をどういう風に見ているのかということ。例えば保存則の背後に対称性があるとか,初期条件を決めて微分方程式を解いていく方法が局所的だとすれば境界を決めて変分で考える大局的なモノの見方もある,とか。かっこよく言えば「世界の美しさに気付くための方法」として物理も使えるよ,ということ。

2. 現代に繋がる物理
最先端ではどう使われているのか,他分野とどうリンクしているのか,今までの科学の歴史を受けて今後どう発展していくべきなのか考える機会としたいということ。高校時代に教わった物理の「種明かし」ともしたい。

3. 物理的概念の整理
素朴概念と呼ばれる,物理を理解する上で邪魔になりがちな誤解を解きほぐしていくということ。例えば,

・物体が止まったのは物体に力が働かなくなったから,という間違い
(摩擦力が働いて止まったのであり,力が全く働いていない状況ではない。しかし日常生活では摩擦が当たり前すぎてその存在を忘れてしまう。「力が加わる→動き出す」ならばその逆は「力が加わらない→止まる」と思いたくなるのも原因か)

・上向きに動いている物体には上向きの力が働いているという間違い
(例えば,上に投げたボールは上に動いているときにも下向きの重力がずっと働いている)

4. 問題を解くコツ
受験っぽい話なので何となく幼稚に聞こえるが,何だかんだいって重要。どんなものでもその実用性や有用性を知るためには自分で使ってみるしかないが,講義中に「ふむふむ」と思っていたことでも自分でやってみると「あれ?この場合はどう考えるんだっけ?」ということがしばしば。例えば自由落下の問題ひとつにしても,参考書に載っている公式は,まず座標軸を張って正負の向きを指定してから決めているということとか(しかもこの話は自然現象は本来座標には依らず,計算の便宜上仕方なく座標を振っているだけということを理解することにも繋がる)。
3の物理的概念の整理が定性的な話なのに対し,4は実践的に定量化する際の問題点の整理に相当する。

欲張って毎回4つ全てにちょっとずつ触れるか,講義ごとにどれかに絞るか。適当に配合を毎回変えるか。アンケートも取ってみるか。その上で「予想を超えるサービス」を目指そう(実家が商売をしているのでこういう表現が僕にはしっくりくる)。3と4から1や2にまで繋げられたらいいなあ。

毎回痛感していることだが,「何を喋るか」ではなく「何を喋らないか」の方が大事だな。まあ,僕はそんなに引き出しを持っていないので「のちに割愛することになるであろうものを仕入れる」という紆余曲折体験をもっとせねばいかんのだが。さて,研究研究。